美しく、深い、ライン川の曙のたゆたいを思わせる第一音から、音楽が始まる。暗い舞台には回転している一台の映写機、その横には本編以上に随分と老いさらばえたヴォータンが座り、その映写されているものを見ている様子。
序曲の盛り上がりとともに舞台転換、ラインの川底の場。
この場は斜め上から見たようにいびつに歪んだ四辺形のスクリーンと、その前に弧を描いて配置された後ろ向きの座席の装置。首から下に赤ちゃんのぬいぐるみをつけた三人のラインの乙女が、首だけを座席の上に出し、ぬいぐるみを椅子の背から客席に向かって見せ、まるでドリフの赤ちゃんコントのように登場(劇場に失笑とヒキの空気)。
三人がラインの清流を称える歌を歌っているところにキングコングのマスクをつけたオーバーオール姿のアルベリヒが映画館の乙女たちをナンパしようと登場(再び劇場に失笑とヒキの空気)。乙女たちは椅子の下に姿を消し、次にはぬいぐるみをとって、白い水着、白い水泳帽の三人のスイマーとして現れ、アルベリヒをからかいながら座席を泳ぐように逃げ回る。アルベリヒも早々にマスクを外し、乙女を追う。
そうこうしているうち、ラインの黄金が水底(スクリーン)にきらめき(CG)、乙女たちはその輝きを称え、欲望むき出しのアルベリヒを侮って、愛をあきらめた者だけがその黄金から世界を支配出来る指輪を作れるという話を軽々しく喋る。乙女たちに馬鹿にされたニーベルング(儒人)族のアルベリヒは乙女の傲慢に怒り、一転、愛を呪って水底に潜り黄金を盗む(座席からスクリーンに向かってダイブし、同時にスクリーンにCGのアルベリヒが登場、水を潜って、水底にある黄金のジグソーパズルの一片を外す)。乙女たちは驚き慌て、青ざめるまま暗転。
舞台転換、舞台全体が一枚の黄色い板で覆われ、その中央に前場のスクリーンと同じ型の四辺形の大きな穴が開いている。その穴の中に引っ越しの準備をしているように段ボール箱が積まれ、大きなデスクがある部屋の風景。奥には宇宙のような暗闇の広がる窓。
コート姿の大神ヴォータンがデスクに設計図を拡げ、巨人族に工事を請け負わせた神々の城、ワルハラの完成間近なことに悦に入っている。そこに妻のフリッカがスーツ姿で怒りながら登場、妹の女神フライアを形に工事を請け負わせたこと、その納期が迫っているがちゃんと対策を考えているのか、夫のヴォータンに詰め寄る。
そこに白いドレスのフライアが逃げてくる。それを追って巨人の兄弟、ファゾルトとファフナー、ヘリコプターのサーチライトのような光とともに奥の窓に登場。二人はブルースブラザーズのような黒スーツに白いストール、マフィア風の出で立ち。
城を完成させた巨人兄弟は約束通りにフライアの引き渡しを求める。親戚の兄ちゃんの様な神ドンナーとフローが現れ、巨人兄弟から従妹のフライアを守ろうとするが、契約を結んだ負い目のあるヴォータンに止められる。ヴォータンはなんとかごまかして他の代価で済ましてもらおうとするが、巨人兄弟は頑にフライアを要求し、ひとまず人質としてフライアを連れ去ってゆく。
困ったヴォータンは知恵袋、火と策謀の神ローゲを呼び寄せる。部屋の隅から中央にすべってきた小さな段ボール箱が開き、怪盗ルパンともマジシャンともつかぬ、マントにシルクハットのうさんくさい姿のローゲ、箱の中からイリュージョンチックに登場。知謀を買われて火の精から格上げ、ヴォータンに神格を授けられたローゲに、他の神々の連中は身分違いの闖入者として冷淡な反応。
ヴォータンになんとかするよう命ぜられたローゲはもったいぶりながら、ラインでの黄金紛失の顛末、乙女たちからの黄金を取り戻してくれるようにヴォータンに陳情してくれとの伝言を預かったことを話す。
ヴォータンはその黄金を代価にしようと、盗人のアルベリヒがいる地下の国、ニーベルハイムにローゲと共に向かう(四辺形の穴から舞台を仕切る板の外に出、そこに付けられた手すり梯子を下ってゆく)。
板が横にすべって場面転換。今度は黒い板に、さっきとは逆の向きに歪んだ四辺形の穴があいて、板の端にはスパンコールで「ニーベルハイム」の裏文字が大きく描かれている。
穴の中には近代的な工場の中二階(下に工場を見下ろす)のような、工場オーナー・アルベリヒの執務室が黄色い照明で照らされている。
アメリカ南部の勘違い成金のようにスパンコールのスーツを着たアルベリヒが娼婦風の女の腕を引っ張って登場。アルベリヒは女を机に突き飛ばしたり、ぶったり、サディスティックな振る舞いをし、女は早々に走り去ってゆく。(女は第三夜「神々の黄昏」の主役ハーゲンの母親グリムヒルデか?愛を呪って不能になったアルベリヒが呪いで孕ませた−という物語が、SMにはけ口を見出す不能者の苛立ちとして見られた)
アルベリヒの弟、エンジニアのミーメが女と入れ替わりに現れ、作業の遅さをアルベリヒになじられ、虐待される。ニーベルング族はラインの黄金の指輪の力によって、独裁者アルベリヒに支配されてしまっている。
アルベリヒが去った後、板の外側から再びヴォータンとローゲ登場。二人はミーメからアルベリヒの横暴ぶりを聞き、同情を装って、ミーメがアルベリヒの命令で「かくれ兜(かぶると何にでも変身できる)」を作らされ、それによってアルベリヒがニーベルハイムを恐怖支配していることを聞き出す。
アルベリヒと対面した二人は、そのかくれ兜の魔力を見せてくれるように懇願し、アルベリヒは大きな怪獣に変身する(四辺形の二つの対角に、大きなイグアナの様な怪獣の顔としっぽが現れる)。
ヴォータンは尊大に冷笑しながらそれ見るが、ローゲは過度に怯えた風を装い、アルベリヒにおもねる。「しかし、大きなものに変身できても、きっと、小さなものには変身できないでしょう」というローゲの口車に乗ってカエルに変身したアルベリヒは、あっさりとローゲの手で捕われてしまう。
場面は再びヴォータンの部屋へ。
フライアの作る青春のリンゴを食べないと老いてしまう神々は、皆ぐったりとしている。
ヴォータンとローゲ、人の姿に戻ったアルベリヒに縄をかけて蹴り飛ばしながら登場。アルベリヒは身代金にニーベルハイムの宝(ラインの黄金やかくれ兜)を要求され、口惜しさに臍を噛みながらも「指輪さえ手元に残れば」との含腹で、ニーベルングたちに命じそれらを運ばせる(部屋の下から出てきた小人たちの手が黒いスーツケースを端から端に並べてゆく)。
身代金と替えて解放を要求するアルベリヒから、ヴォータンは最後に指輪までも奪い取る。ようやく解放されたアルベリヒはその指輪に「所有者に必ず不幸な死がおとずれる」呪いをかけ、腹をナイフで刺して憤死する(第二夜以降アルベリヒは瀕死の重病人の姿で現れるので、ここでは未遂に終わったか?あるいは亡霊か?−原典ではアルベリヒはここで自殺はしない)。
巨人兄弟がフライアを伴って、再び交渉に登場。弟巨人ファフナーは兄ファゾルトがフライアに惚れているので、その姿が隠れるくらい財宝を積めばフライアを解放すると提案。神々はフライアの前にニーベルングから掠め盗ったスーツケースを惜しそうに積み重ねてゆく。
ファゾルトの未練をネタに、フライアの瞳の輝きの代わりとしてヴォータンの指輪をも要求するファフナーに、ヴォータンは指輪を渡すことを拒否、交渉は決裂しかける。
そこに大地と智の神エルダが、舞台の外、黄色い板の一部がジグソーパズルの形に開いた場所から現れ、その指輪を渡してしまうようヴォータンに忠告する。ヴォータンは渋々その忠告に従い、指輪を手放す。
「お前のために多くを犠牲にしたよ、さあ、戻っておいで」と手を差し伸べる神々の矛盾した理論に、フライアはあからさまに不信感を示し、ファゾルトと離れ難いような素振りを見せながら、神々の元に戻る。
指輪を手にしたファフナーは去ろうとするが、ファゾルトがフライアの瞳の代わりの指輪を望みだしたため、あざといファフナーは兄を打ち殺してしまう。フライアはファゾルトの死体に駆け寄り、薄情な神々よりも情の厚かった(であろう)ファフナーの死を悲しみ、死体に覆いかぶさって泣く(この時、フライアの白いドレスがファフナーの血で赤く染まる。舞台の伝統的な約束事として白いドレスの女性は処女、そのドレスが赤く染まることは処女喪失の暗喩なので、ここでフライアとファフナーが種族を超えて結ばれていたことが判る)。
兄殺しの指輪の呪いの恐ろしさにおののきながらも、神々は早々に気を取り直し、ワルハラへの引っ越しを始める。
雷の神ドンナーが雲を払う雷神の雷を部屋の真ん中で振りかざし、床を打つと、雷鳴とともに舞台全体が下に落ちてゆく。
舞台に大きく開いた穴の向こうに真っ白なセットがあり、それが徐々に近づいてくる。舞台手前の黒い部分と通路一本分くらいの隙間を残して、奥のセットは止まる。
真っ白な空間には向う正面の消失点に向かって斜めに延びる二つの壁面と三角形の天地、壁面には幾つものドアがあり、それぞれのドアの上には黄色い看板で矢印と部屋番号が振られ、天井には同じ黄看板で上向きの矢印が描かれている。そして、左右の壁にそれぞれWALと
HALLという立体造形の文字が立てかけられ、白いスーツやドレスで着飾り、神々の冠を付けたヴォータンやフリッカたちがその合間に立っている。
ヴォータンは新築されたワルハラ城を称える歌を意気揚々と歌い、その奥へと向かおうとする。「指輪を取り戻して」と嘆くラインの乙女たちの歌がそこに聞こえてくるが、神々はそれを冷笑、無視して進み始める。ローゲだけは独り元のままの黒いマントとシルクハットの姿で、同行せずに壁にもたれ掛かっている。
天井からカラフルな風船が降り注ぐ中(虹の橋)、その他にも現れた仮面をつけた色々な神々のつがい(皆白いスーツとドレスで、冠だけで日本の神、インドの神、エジプトの神、などという風なイメージが判る)がヴォータンたちに続いて堂々とワルハラ城へ行進してゆく。
神々の背を見つつ、ぼろコートを着たり包帯で巻かれた、ボロボロになったホームレス姿のラインの乙女たちがショッピングセンターのカートを一台押しながら、舞台最手前の黒い帯の部分を走り抜け、照明が落ち、幕。
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